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プルルルル──。

 絵里子の部屋の内線が鳴る。
「なに……もう……」
 寝起きで働かない頭を小さく降って、どうせ家政婦か誰かだろう、と内線を無視した。十秒ほど鳴り続いた内線は程なくして切れる。
 里佳子が亡くなってから二年、絵里子は高校一年生になった。
 忙しいながらも家族想いである父──今泉新次郎は絵里子のためにと、なるべく家に帰ってきてくれる。仕事が残っているのか、事務所のスタッフを同行させていることが多かったけれど、それでも絵里子との話に時間を割いてくれるのは嬉しかった。
 しかし、そのスタッフというのが──絵里子にとっては邪魔でしかない女。
 しばらくの後、部屋をノックする音が響いた。
 母と同じ柔らかな鳶色の髪を軽く梳き、絵里子は気怠い身体を無理やり起こし部屋のドアを開けた。
「お嬢様、新次郎様が書斎にとお呼びです」
 父が……?
 一体何の話だろうと、仕方なしに重い腰をあげる。
「お父さん?」
 コンコンと重厚な扉をノックする。仕事関係の書類が多い書斎は、鍵がかかるようになっていて、絵里子が小さい頃遊び半分で忍び込んだ際、優しい父にしては激しく顔を歪ませて怒られた記憶がある。それ以来、父の仕事部屋には近付かない癖がついてしまった。
 中から入りなさいと声がかかる。
 扉を開けた先には、あの女がいた──。
 小さい頃は何も知らずに慕っていたこともあったが……。
「絵里もよく知っているだろ? 牧野つくしさん、うちの事務所で働いてくれていたんだが……やっとプロポーズに色好い返事をもらえてね」
 そう、母亡き後……当たり前のように里佳子の居場所に収まろうとした、牧野つくし。母とは比べ物にならない平凡な容姿に、パッとしない化粧、お洒落とは無縁の場所にいるような女。
 父から実は結婚したい人がいると告げられて、よく家に来ていたつくしの名前が出た時は驚愕以上に、今日ってエイプリルフールだったっけとカレンダーを確認したほどだ。
 美しく聡明であった母のような女性ならば、まだ納得したかもしれない。しかし何のキャリアもない父の事務所でアルバイトをしていたという庶民だ。
 そんな本心を隠して、和かに絵里子は口を開く。
「ふうん、良かったね。 じゃあ、これからは〝つくしママ〟だ……よろしくね」
「絵里ちゃん……ありがとう」
 感動したのか、目の前にいるつくしが目元を押さえて涙ぐむ。どうせ演技なんじゃないのと白けた瞳を送りながらも、口元の笑みは崩さない。
「仕事のこともあるし、つくしにはすぐにでもここに住んでもらおうと思ってる。 絵里が賛成してくれて嬉しいよ、お前はやはり自慢の子どもだ」
 つくしは声にならない声をあげて、何度も頷いていた。絵里子が我慢することで父が助かるのならば、それでいいのだ。
「話がそれだけなら、あたしやることあるから、もういい?」
「ああ、いや……もう一ついいか? つくし……君は、一度家に帰って手荷物だけ纏めてきなさい。 諸々の手続きはこちらで手配しておくから」
 新次郎に言われて、つくしが頷いたのち部屋から退出する。久しぶりに親子での時間が取れることに、絵里子は喜びを感じていた。
「絵里、確かスマートフォンのゲームとかやってたな? 私はそういうの全然わからないんだが」
「あ、うん……若い子はみんなやってるんじゃない? どうして?」
「いや、ちょっと……兄さんの仕事関係の人にな、オークションサイトの運営を頼まれたんだが。もうちんぷんかんぷんなんだ……」
 新次郎は書斎にある机の引き出しを開ける。そこから一台のタブレットを取り出し、絵里子に見えるように机の上に置いた。
「これ?」
 絵里子は慣れた手つきでタブレットの画面を操作する。どうやら、アプリ内で購入するゲームの武器やアイテムを、現実のお金でやり取りするオークションサイトらしく、ゲームの中から外部のサイトに飛ぶようになっていた。そして、レアアイテムなどは法外な値段がついているのがわかる。個人名がわからないように、全てIDで管理され、購入者は運営元に金を払いアイテムを購入し、売出者は運営元から金を受け取るようになっていた。
「あー最近こういうの流行ってるよね。あたしもよく、服とか買うし。それに、あたしこのゲームやってるから知ってるよ? 何か手伝えることある?」
 その言葉を待っていたように、ありがとうと新次郎に告げられる。父の役に立てるのならばと、絵里子は大きく頷いた。
「アイテムの保管庫があるんだ。それを大体行き過ぎない程度の値段で売って欲しいそうだ。できそうか?」
 なんだ、そんな簡単なことかと拍子抜けした。サイトを開いていけば、確かに保管庫というボックスに、レア度の高い武器から、どこにでもある防具などとにかく大量のアイテムがあった。
「これ全部売っちゃっていいの? レアなのもあるよ?」
「ああ。頼んだよ……絵里」
 何歳になっても人好きのする柔らかい微笑みを浮かべて、父が言った。



「あれ……? おかしいな……オークションサイトがなくなってる」
 何度サイトに入ろうとしても、エラーで画面が表示されなくなっていた。サイト自体がなくなっているようだ。
「やっぱ、ダメだ」
 もうあれから、五年が経つ。
 純真で何も知らなかった絵里子はもういない。今、残っているのは僅かばかりの父への信頼と、里佳子からずっと言われてきた言葉。
〝今泉新次郎を総理大臣に〟
 おかしいと疑問に思う時期も過ぎてしまい、ただ父から言われた通りに動いている。
 オークションサイトにしても、取引はすでに数千件にも及び、個人にしてはかなりの額になっているはず。しかし、その金がどこへどう流れていっているのか、絵里子は知らなくていいことだ。
「お父さん忙しそうだったけど……一応聞いてみよ」
 絵里子は部屋を出ると、父の書斎をノックした。中から父の低い声で入室を許される声がかかった。
「絵里……すまない、ちょっと今バタバタしていてね……」
「あ、いえ……大したことじゃないから、後でいいんだけど」
 忙しいところごめんなさいと、絵里子が新次郎に背を向ける。
「いや、ちょっと待ちなさい……もしかして、オークション、で何かあったかな?」
 たかがゲームのオークションだ。父にとってはそう大事なことでもないだろうと思っていたのだが、予想に反して絵里子を呼び止めた父の声は真剣そのものだった。
「……多分、ゲーム会社のシステムエラーとかメンテナンス中とかだと思うんだけど、あのオークションサイトに入れなくなっちゃって」
「……ちょっと貸しなさい」
「あ……はい」
 絵里子は手に持っていたタブレットを新次郎に手渡す。操作方法がわからないと言っていた割には、慣れた手つきで新次郎はゲームを起動させた。
「どういうことだ……くそっ」
 父にしては粗暴な言葉遣いに絵里子の胸に不安が広がった。
「絵里ちゃん、ちょっとこっちに」
 何だいたのか、と耳障りな声に視線を向ける。新次郎のそばに仕えていたつくしに肩を支えられながら書斎から出る。触らないで──言葉を飲み込んで絵里子は手のひらをギュッと握った。
 それよりも、先ほどの新次郎の様子が気になった。事は絵里子が考えていたことよりも大きいようだ。
 この女ならば知っている?
「ねえ、つくしママ……どういうこと?」
「私も聞きたいわ……新次郎さんに何を頼まれていたの?」
 面倒ではあったが、つくしが何か知っているのであればと、絵里子は詳細を語った。話していくうちに、つくしの顔が見る見るうちに青褪めていき、忙しなく左手の薬指を撫でる動作を何度も取っていた。
「絵里ちゃんが……オークションの取引を?」
 確認するようにつくしが聞いた。絵里子は眉根を寄せながらも、小さく頷く。
「……もちろん、あたしの名前じゃないわ。叔父さんのアカウントとかじゃないの?」
 絵里子が問うと、つくしは悩んだ素振りを見せながら答える。
「新次郎さんに……お父さんに頼まれたんでしょう? 新次郎さんがすることに間違いなんかないわ、でも……絵里ちゃんも今泉の人間ならばわかるはずよね……綺麗事だけではどうにもならないことがあるって」
 つくしの言葉は絵里子に語っているようで、自分に言い聞かせているかのようだ。先程からずっと、薬指に嵌ったプラチナリングに触れている……緊張しているのか? つくしにとっても、予想外の出来事が起こっている?
「それって……もしかして、裏金……とかそういうこと?」
 半ば絵里子が予想していた通りだった。新次郎の兄に確認を取ったわけではないが、アイテム保管庫にあるアイテムの数は、とてもじゃないが一個人が持てる量ではない。そして足がつかないようになのか、いくつものアカウントを切り替え慎重に売買を繰り返しているのだ。組織ぐるみ、そう思われても当然の額がネットを介して行き交っている。
「さあ……でも、新次郎さんのことだから、きっと何か考えがあってのことよ」
〝新次郎に間違いはない〟つくしはずっとそればかりだ。絵里子にはつくしこそ、父のことを信じられなくなっているように見える。
〝頼んだよ……絵里〟そう言った父のことを信じたい気持ちは絵里子にもある。それに、父に関する不穏な噂を耳にしたことも何度かあった。その度に政治家にはつきものだと、そう言った里佳子の教え通りに父を信じていたけれど。
「あの、オークションのお金は、汚いお金なの? お父さんが、あたしを裏金隠しのために利用したってこと……?」
 ショックはなかった。むしろ、父ならばやるだろうなと思うばかりだ。でも気付かないフリをする。自分の役目はそれでいい──。父にとって都合のいいお嬢様を演じていればいいのだ。
「絵里ちゃん……お父さんを信じましょう、きっと……何か事情があったんだわ」
 心底心配そうなつくしの声色の中に、安堵を感じる。ああ、そうか……この女、安心したんだ。
 裏金を隠しマネーロンダリングを指示しているのが父だったとしても、そこに新次郎の名前がなければ証拠不十分で不起訴となる可能性が高い。
「ほんと……バカじゃないの……」
「え?」
「信じる? あんたは知らないかもしれないけど、お父さん……あんたと結婚する前から続いてる女がいるから。でも、あんたもでしょ? 夫婦揃って、よくやるよね」
 絵里子の言葉につくしの顔が見る見るうちに驚愕の色に染まる。しかし、それは初めて聞くことによる驚きではない。
「へぇ~知ってたんだ? なに? 情報源はF4の誰か……とか?」
 わかりやすい女だ。すぐ顔に出る。
 つい一週間ほど前──大学が休講になった平日、珍しく絵里子は遊びにも行かずに自宅で過ごしていた。
 家政婦の作った食事を摂り部屋に戻ろうとすると、つくしの部屋から声が聞こえてくる。別に盗み聞きをしようとしたわけではない。あの言葉を聞かなければ、仕事の話だろうとさっさと部屋に戻っていただろう。
『花沢類……っ、嘘よ! あの人が談合していた、と言うの?』
(花沢類……? ってF4の……なんであの人が電話なんか)
『闇献金? そんなことをするはずがないわっ……でも、でも……それが表沙汰になったら、あの人はおしまいなのっ……』
『記者が……そう……ねぇ、花沢類のところでなんとかならない?』
(気持ち悪い……っ、気持ち悪いっ!)
 あの時のつくしの声は〝女〟のそれだった。誰でにも腰を振る雌犬の如く、甘えた声で、男を誘う。
「たとえば……花沢類さん、とか?」
 侮蔑の視線を向けて問えば、つくしの表情はより強張っていく。
「し、知らないわっ!」
 絵里子に背を向けたつくしは、仕事があるからと言って自室へ戻ってしまう。
「ほんと……バカな女」
 呆れ混じりの声での呟きは誰に聞かれることもなく、宙へと消えた。



 〝助けてほしい〟とつくしは言った。
 ならば、自分の手を取れば良かったのだ──縋りついて、あなたしかいない、ただ一人の人をと腕を回せば、きっとあきらも絆されていただろう。
 あきらには妻と子どもたちがいる。あの時つくしの瞳を見ていなければ、家庭を鑑みることなく今でもつくしとの愛欲に溺れていたかもしれない。いや、あの夜のことは鮮明に思い出せる。もう一度と言われれば、あきらが断ることはないだろう。しかし──。
「お前は……どうしたってんだよ」
 つくしの瞳は言っていた。
〝今泉を助けるためなら、なんでもする〟
 あきらは、鍵のかかった引き出しから書類を取り出し、酷薄そうに目をツッと細めた。
「真っ黒だよ……お前の旦那は。そういう男を一番嫌う女だっただろう?」
 大きいところでは野崎建設からの闇献金、その他様々な方法で不正な金を受け取っている男だ。それを〝使える金〟にするのも大変なことだろう──が、新次郎にはそれができるだけの人脈がある。
「なのに……娘まで使うかねぇ……可哀想に」
 可愛いはずの愛娘、絵里子すら、道具の一つであるという証拠だろう。しかも、自分にとって大変に都合のいい従順な犬だ。調べた結果、もう五年以上、絵里子は新次郎のマネーロンダリングの片棒を担がされていたということがわかっている。英徳大に通うお嬢様である絵里子は、何も知らずにゲーム感覚で手を出していたに過ぎない。
 絵里子が関わっていたオークションサイトを運営していた会社を潰したのは、同情なんかじゃない。
 今泉新次郎、あいつがいなくなれば……お前は戻ってくるだろう?
「俺のところに来い、牧野──。お前が俺の手だけを取るなら、助けてやる」



↓オマケ↓がありますのでこちらもどうぞ

Comments - 8

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スリーシスターズ  

こんばんは。

つくしちゃんと絵里子ちゃんとの確執、今泉議員が娘までも使って裏金作りをしていたことなど、色々なことが2人の会話から分かってきましたね。
真っ黒な今泉議員。だけどつくしちゃんはまだ今泉議員を信じると言い続けています。
あきらくんがつぶやいた「お前はどうしたっていうんだよ」という言葉がやるせないですね。
本当につくしちゃんはどうしちゃったのでしょう?

つくしちゃん、真相を心の中にしまったまま、また消えてしまいそうな・・・
そんなことが頭をよぎりました。
F4とつくしちゃん、闇から解放されて欲しいなと思います。




2017/10/22 (Sun) 00:33 | EDIT | REPLY |   
オダワラアキ  
Re: スリーシスターズ様

コメントありがとうございます🎶

私もこのお話を書くにあたって、つくしどうしたっ!?て思いながら書いていたので、どうしてもつくし視点では書けなくて、無理やり気味に絵里子視点で書いてみました!
あきらの言葉はきっと私の心情です(笑)

残すところダークネスもあと二話です…つくしは最後どうするのか…

2017/10/22 (Sun) 06:18 | EDIT | REPLY |   
kachi  

アキさん
おはようございます(o^^o)
お話の更新ありがとうございます😊

今泉は我が子も利用するなんて最低男だったんですね!
絵里子ちゃんも可哀想です。

それにしても、つくし。
絵里子ちゃんが巻き込まれていると知ってもあんな対応するなんて、本当にどうしちゃったんでしょう。
まったく今泉の何を信じようとしているのか、絵里子という魔女に呪いでもかけられちゃったのかしら?

あきらくんもつくしの瞳を見て思いとどまったんですね。
つくしらしいつくしに会いたいです!

2017/10/22 (Sun) 08:35 | EDIT | REPLY |   
オダワラアキ  
Re: kachi様

コメントありがとうございます!

真っ黒な政治家でしたね〜
そしてつくしも、かなり最低です!って私が書いたのか(笑)
親がこんなんだと、絵里子も可哀想ですよね。
絵里子に感情移入し過ぎて、危うく絵里子主役の話になりそうでした(笑)

つくしらしいつくしに、私も会いたい〜

2017/10/22 (Sun) 09:18 | EDIT | REPLY |   
わんこ  

初めまして、初回から読ませて頂いてます。
この話、まるでツクシらしくなく政治家の後妻そのまま、前妻の言葉を鵜呑みにして動いているそんな感じで、
好きな話ですが、イライラしています。
今回、今泉の本性がわかりア~政治家さんねでした。自分の政治家生命を安泰にするなら家族をも簡単に犠牲にする。
娘の絵里子さんが最も犠牲になって、ツクシは何をそんなに一生懸命守ろうとしているのか?
いつもの人を信じる必ず訳があると根拠なく信じる、この物語ではツクシはただの人形に感じます。
残り、2話でツクシと家族がどうなるのか楽しみです。かなりダークな最終回に感じますが?

2017/10/22 (Sun) 10:40 | EDIT | REPLY |   
オダワラアキ  
Re: わんこ様

コメントありがとうございます🎶

今泉悪でしたねぇ〜
世間の持つ政治家のイメージまんま、な感じで(笑)
絵里子も犠牲者の一人ではありますが、一体つくしは何をしたいのか…
原作の明るいつくしちゃんはどこにいっちゃったんでしょうね

あと二話で終わりです🎶
最後まで楽しんでいただけると嬉しいです!

2017/10/22 (Sun) 18:51 | EDIT | REPLY |   
さとぴょん  

アキ様
黒々と光るお話ありがとうございました。

あきらの
「真っ黒だよ・・・」
「俺のところに来い。・・・」

という台詞にドギュン♡とヤラレマシタ♡

2017/10/31 (Tue) 13:49 | EDIT | REPLY |   
オダワラアキ  
Re: さとぴょん様

コメントありがとうございます♫

あきら書くこと滅多にないので、自分でもこれでいいのかとドキドキです(笑)

楽しんでいただけてよかったです(^ω^)

2017/10/31 (Tue) 22:02 | EDIT | REPLY |   
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