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総二郎との情事から1週間が経つ。

メープルホテルの大広間。
誰もが知る大物議員と談笑する夫の隣でつくしは微笑みを浮かべていた。

露出が控えめなドレスを選んだのは政治的な場であること以外にも理由がある。
数日前にあきらと総二郎が残した赤い内出血はすでに消えていたのだが、どうしてもその場所を晒す気持ちになれなかったからである。

今夜のパーティは夫の新次郎が所属する民自党の政治資金パーティで、党にとっては収入を得るための重要な催しである。
次の衆議院選挙も視野に入れ、資金を確保するのが目的だ。

今回は新次郎とともに出席したパーティの中でも特に大きなものであり、パーティ券購入者のスケールも違う。
中小企業の経営者も多いが、世界に名を馳せた有名企業のトップも出席者名簿に名を連ねている。
党としてはこの先に控えている衆議院選に備えて合法的に資金を集めたいところで、政治献金が規制された今となっては、今後もこういったパーティが多く開かれるだろう。

夫に寄り添いながら重鎮に笑顔を向けるつくしの頭の中は、煌びやかなパーティとは全く違うことが渦巻いている。
つい数日前にこのホテルであきらに抱かれたのことはもちろんだが、ひとつ先に置かれたテーブルの前で、新次郎の同期議員と談笑するひとりの男が気になって仕方ない。

特徴的な髪型と、他の経営者にはない強烈な存在感。
この世のものとは思えないくらい美しい横顔の持ち主が手の届く距離にいる。

―道明寺司―

それはかつてつくしが狂おしいほどに愛していながら、成就することのない結末を迎えた男だった。

「つくし、疲れたかい?」
「あ、いえ…そんなことは…」

談笑を終えてつくしに向き合った新次郎が、優しい言葉をかけてきた。
決して疲れているわけではない。
ただ新次郎の肩越しに見える懐かしい影が気になって仕方がないのだ。

「立食は疲れるね。しかもつくしは気遣いもしなければならないから私よりもよっぽど疲れるだろう?少し座って休むといい」

自分に優しい言葉をかける夫に他の女性がいるのだろうか?
しかし仮に夫に女性がいたとしても、あきらや総二郎と関係を持ってしまったつくしにそれを咎める資格はない。

「いえ…本当に…」

つくしの肩を抱いて会場隅にある椅子に促そうとした新次郎の背後に大きな影が重なるのを感じると、つくしの心臓はその動きを急激に早めるのだった。

「今泉先生!」

名前を呼ばれて新次郎が振り返ると、そこには道明寺ホールディングス日本支社長として手腕を振るう実業家の笑顔があった。

「道明寺さん!いやぁ大変ご無沙汰しております!」

新次郎は司の差し出した右手を両手で包み込み、固く握って上下に振る。

「先生のご活躍は政治とは全く無縁の私のところにも入ってきますよ。次期総裁もそれほど遠くないと…」
「何を仰いますか!私などまだまだヒヨッコの部類です。大御所の大先生方には遠く及びません」
「またまたご謙遜を…」

逢いたいけど逢えない、逢ってはいけない男。

その男が今、つくしの目の前にいる。

夫とにこやかに談笑する姿を見て、つくしの気持ちは複雑だった。
一度は何もかも捨てて彼の胸に飛び込みたい、そんなことを思ったこともあった。
しかし自分は彼の前から姿を消し、こうして今実業家と政治家の妻として対峙している。
数日前には彼と長年の親友であり、ビジネスパートナーでもあるあきらとこのホテルで情を交わし、さほど時間を置かずに総二郎にも抱かれた。

つくしの過去の恋愛や、二度の裏切りを知らない夫。

どんな過去があったとしても、つくしには今の生活と夫を守らなければならない。
これまでどんな嫌な相手でも笑顔を崩さなかったつくしだが、目の前にいる『過去の男』を前にして作り笑いすらできなかった。

「奥様ですね?」

英徳学園を卒業してから、つくしの目に入る世界はモノクロだ。
どんなに色鮮やかなものを見ても感動する余裕もなく無機質な世界が何年も続いている。
特に政治の世界に身を投じるようになると、色を取り戻すことすら諦めてしまった。

どうしていいかわからず俯いていたつくしに向けられた懐かしい声は、色あせてしまったモノクロの世界を一瞬にしてカラーに変えていく。

「これはこれは失礼しました。妻のつくしです。つくし、こちらは道明寺ホールディングスの道明寺さんだよ」
「え、ええ…初めまして…今泉の…家内です…」
「初めまして。素敵な奥様で羨ましい」
「何をおっしゃいますか、道明寺さんの奥様こそお美しい、今日はおひとりで?」
「あなた…もうそれくらいに…」
「はっはっは、そうだな、お互いに奥様を褒め合っていては進む話も進まないな。それより経済の…」

新次郎が経済界の現在と今後を司から聞こうと話を変えたときだった。
公設第二秘書の川上が、新次郎にそっと近づき耳打ちした。

「道明寺さん、申し訳ありません。電話が入ってしまったので少し外しますね。少しの間妻がお相手しますので、お待ちいただけますか?」
「ええ、どうぞ。奥様をお借りします」

にこやかに微笑む夫と、同じように微笑む過去の男。
新次郎が席を外してロビーへ向かうと

「ずいぶんとご無沙汰だな、牧野」

実業家と政治家の妻という距離を決して崩すことのない表情で、つくしに語りかけた。

「そ、そうですね…ご無沙汰しちゃって…」
「変わりはないのか?」
「ええ。元気にやっています」

お互いの近況を伝え合うだけなのに、つくしの鼓動は早く、視点も定まらない。一方司はにこやかな笑顔を浮かべたまま。
そのアンバランスさがつくしをさらに息苦しくさせた。

「滋の結婚式であきらや総二郎に会ったんだろ?あいつらとはそれが最後か?」

司の口からふたりの名前が出るのはある意味仕方のないことかもしれない。
だがふたりと関係を持った直後のつくしにとって冷や汗をかくだけの威力があった。

「いえ…少し前に偶然お会いしたのだけど…」

新次郎のスキャンダルと自分たちの生活を守るためにあきらや総二郎に接触し、関係を持ってしまったなどとは言えるはずもない。
つい『偶然』などという言葉を使い、その場を取り繕おうとする。

それと同時に

―ふたりに断られたことをこの人に…―

いくら司との淡い初恋が蘇ってきても、あの頃に戻れるわけではない。
道明寺ホールディングスの事実上トップなら、スキャンダルの揉み消しくらい簡単なはずだ。

司の目はつくしを愛していた時と変わらぬ眼差しである。
つくしは左手の指輪にそっと触れると、意を決して口を開いた。

「道明寺…さんは経済界や政界だけじゃなく、幅広い業界にツテがおありになるでしょう?」
「?ああ、そうだな。それなりに顔は広い」

つくしはこの先を口に出していいものか躊躇っていた。
あきらや総二郎との信頼関係はすでにない。

司にスキャンダルの揉み消しを依頼したところで、断られてしまえばそれで終わりになるのは目に見えている。
4人の中で最も影響力があることを考えると、簡単に口に出すことはできないし慎重にならざるを得ない。

「何か頼みがあるんだろ?そんなことを聞くからには」

なぜか司は含み笑いをしながらつくしを見て言った。

「いえ…そういうわけでは…」

そう言われてしまうとつくしとしては言い出しにくい。
何も言えずに黙ってしまったつくしを司はしばらく無言で見つめていた。

「あの…」

このまま黙っていても埒があかないと思ったつくしは、スキャンダルの揉み消しを司に依頼する決心をした。



その時前方から夫の新次郎が戻ってくるのが見え、言いかけた言葉を飲み込むしかなかった。

「これは宮下先生!」
「いやぁ道明寺さん、ご無沙汰してますね、ご活躍で」
「いえいえとんでもないですよ!いつも先生にご指導いただいているおかげでうちは成り立っているようなものですから」
「君は大袈裟だな」
「「ははははは」」

ロビーでの電話を終えて戻って来た新次郎だが、再び声をかけようとしたところ同じ民自党の宮下議員と司が会話を弾ませているのを見てため息をついた。

「宮下先生に道明寺さんを取られてしまったね」
「あなた…」
「疲れただろう、部屋に行くかい?」
「いえ…私は…」

否定はしてみたものの、精神的にはひどく疲れている。
新次郎にエスコートされながらつくしは司から少し離れた場所を通って会場を出ようとした。
すると新次郎が突然足を止め

「おい…あれは…近藤か…?」

新次郎の目線の先。
そこには数週間前に新次郎の政策秘書を辞めて事務所を出ていった近藤という男が立っていた。
大変優秀な政策秘書であったが、退職理由を明らかにすこともなく、突然辞めると言い出し今泉事務所が一時混乱したことをつくしもよく覚えている。

「そうね…近藤さんだわ…」

その近藤がこちらに気づくと、新次郎に軽く会釈だけして横を通り過ぎた。
事務所に迷惑をかけたことに対して自分に謝罪があると思っていた新次郎は呆気に取られ、すれ違う近藤の姿を追うことしかできずにいる。
そして近藤が足を止めた場所―

宮下議員の斜め後ろだった。

宮下は近藤の肩に手を添え、司に紹介しているようにも見える。
つい最近まで新次郎の政策秘書だったわけだし面識くらいはあるだろうが、ふたりの姿を見る限り親密そうだ。

里佳子の生前から右腕として働いていた男の裏切りにも似た行為に新次郎も腹を立てており、姿を消した理由を知りたがっていた。

つくしに少し待っていてほしいと告げると新次郎は宮下と近藤に向かって足を進めていく。

宮下は新次郎の1期先輩で、お互いに次期総裁候補として名前が挙がっていることから、ふたりはライバルだと囁かれている。
同じ党に属していながら派閥も思想も異なり、世間では犬猿の仲であるとまで言われている。

「ああ、今泉先生、先ほどは失礼しました」
「いえ…」

新次郎は再び司の元へ行き、宮下と近藤のことを睨みつけた。

「ああ、近藤さんは以前今泉先生のところで政策秘書をされていましたね。今彼は宮下先生のところで公設第一秘書をされているそうですよ」
「なんですって?」

会場内に響き渡るほど珍しく大きな声を上げた新次郎につくしが駆け寄ると、新次郎の顔色は青く、唇は震えている。

「あなた…お加減が…。お部屋に行きましょう…」

それだけ言うと新次郎を支えて会場を出ようとした。

「いろいろ大変ですね…奥様」

すれ違いざまに司はつくしにそう言うのだった。



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Comments - 6

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スリーシスターズ  

おはようございます。

次に会ったのは司くん。
つくしちゃんから連絡を取ったわけではなくパーティーで偶然ですが、それでもつくしちゃんの心はざわついていますね。
つくしちゃんにとって司くんはまだ想い人なのかな?
そんな感覚さえ持ってしまいます。

司くんも結婚していましたか・・・
まぁそうですよね。
別れてからずいぶん経ってしまっていますしね。
つくしちゃんだって結婚したんですからね。

司くん全てを知っているといった感じでつくしちゃんに話しかけてきますね。
つくしちゃんから何を相談されるのかがもう分かっていそうです。
あきらくんと総二郎くんとの間に何があったのかも・・
司くんの力を持ってすればつくしちゃんの身辺を調べるのなんて朝飯前ですよね。

最後に意味深な言葉をかけた司くん。
つくしちゃんは司くんに会って話をする決心はしたのでしょうか?
パーティーではにこやかに表の顔をしている司くんもつくしちゃんと二人になったらどんな風に変わってしまうのでしょうか?
司くんの想いもつくしちゃんの想いも心の奥底では変わっていないといいなと思ってしまいますね。

2017/10/19 (Thu) 08:02 | EDIT | REPLY |   
やこ  
スリーシスターズ様

連日記事ごとのコメントありがとうございます。イベントを楽しんでいただけてるようで管理人として御礼申し上げます。
心配されていた「Darkness」も今のところはなんとか大丈夫とのことなので、このまま一気にいきましょう!

さて…
ご存知の通り得意とするお話はコメディですので、当初「Darkness」には参戦しない予定でした。
テーマがとっても難しくてね…。書き始めると結構勢いで書いてしまう私も調べものだったりお話に矛盾がないよう慎重に書いていたため想像以上に時間がかかりました。
なかなか難しいテーマですが、とても勉強になりました。
私も頑張りました、スリーさんも最後までお付き合いくださいね!

2017/10/19 (Thu) 17:59 | EDIT | REPLY |   
kachi  

やこさん
こんばんは!
お話の更新ありがとうございます😊

司との偶然の再会
司の方は再会を意識していたのかもしれませんね。

司の声を聞いただけでつくしの世界がモノクロからカラーに変わっちゃうんですね〜
これは、つくしの心は今も司にあるということのように思えますが、司の方にも同じことが起こっているといいなぁ。

秘書の近藤の裏切りは、今回のスキャンダルと関係しているのか怪しそう。

このあと、司と2人きりになるのかしら?
どうなるのかハラハラします。

2017/10/19 (Thu) 21:08 | EDIT | REPLY |   
やこ  
kachi様

こんばんは!
毎回心温まるコメントをいただきまして誠にありがとうございます。
イベント、お楽しみいただけているようで作家一同大喜びでございます。21人を代表いたしまして(いたさなくてもいいんだろうけど)管理人より御礼申しあげます。

さてさて、「Darkness」ですがスリーさんにもコメントしたように当初参戦する予定はなく、「みんなすごいなー、よくこんなの書けるなー」なんて超他人事だったんですよ。
それがなぜか参戦ww。
後になればなるほど難しいのはわかっていたので、ちょうど空いてた4話に手を挙げて先に気楽な気分にさせていただきました。
公開時刻の1分前まで手直ししていたという…
公開となりホッとしております。

イベントはまだまだ続きます!どうぞお楽しみに💜

2017/10/19 (Thu) 22:39 | EDIT | REPLY |   
さとぴょん  

やこ様♡
お話ありがとうございました♡

凄いお話を書かれるんですねー。
尊敬しちゃいました。

新次郎の前と、つくしの前の、司の口調の違いがよかったです。

司は、つくしが総二郎やあきらと会ったことを知っていて
わざとそんなことを言ったんでしょうかね?

つくしの考えを全て見透かしているようで、
こういう考えてることがわからない司も、なにか新鮮でした。

近藤・・・匂うな。

続き楽しみにしてます(*^^*)♪

2017/10/23 (Mon) 00:48 | EDIT | REPLY |   
やこ  
さとぴょん様

こんばんは❤コメントありがとうございます。

実はうちの旦那だんがですね、ちょいと政治と関わりがあるのでいろいろ聞きながら書いてみました。
すごいツッコミを入れたもんですから「なんだオマエ、政治に興味があるのか?」なんて言われました。
まさか「二次小説書いてます」とは言えません(笑)

こういったお話を書くのはすごく大変だと判明いたしました。
多分二度とこんな話は書かないだろうし、いろいろ調べるのイヤー💦

お話は明日の0時で最終話を迎えますが、いったいどんな結末になるんでしょうね?

難しいテーマでした。いい勉強になったかな♪

2017/10/23 (Mon) 00:56 | EDIT | REPLY |   
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