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類×つくし 最終話



ゆっくりと目を開ける。

(あれ、あたし何してたんだっけ──ああ、そうだ、疲れて眠くなっちゃったから、横になってたんだ)

つくしの視界には、どこかで見た覚えのある重厚感ある扉や、革張りの椅子がある。寝惚けた頭ではそれがどこなのかはわからなかったが、十階にある自動販売機の裏で椅子に座って眠っていたはずの自分が、どうしてソファーに移動しているのだろうと不思議に思った。
眠い目を擦りながら、辺りをキョロキョロと見回し身体を起こす。

(もしかして、ここって──)

花沢物産に入社してから、何度目かの執務室。つくしの想像通りならば、見覚えのあるこの場所に昨日も来たばかりだった。うんっと伸びをしボンヤリする頭を軽く振ると扉が開き人影が目に入る。
「牧野……起きた?」
「類……」

(やっぱり……)

専務である類がいることにつくしは深くため息を吐いた。
もしかしてと思っていたが、もういくら何でもやり過ぎだ。
「類……どうやってあたしのこと、連れてきたの?」
確認のために聞くのは、どうか自分の想像が外れていて欲しいと願っているからだ。
「ん?お姫様抱っこで」
平然と言ってのけた類に、つくしの怒りは募る。それは当然と言えた。つくしがこの花沢物産に入社してから、わずか半年しか経っていない。まだ夏の日差しが色濃く残る九月の終わり、新入社員にしてつくしはすでに有名人だ。
目の前で〝何がいけないのかわからない〟といった風な顔をする男のせいで。
「やっぱりっ……そこまでする必要ないでしょっ!?」



事の発端はひと月ほど前。
類から話があると呼び出されたつくしは、定時に仕事を終えると、辺りを窺いながら類の執務室を訪れた。誰かに見られたのでは、どんな噂が広まるかわかったものではない。
ノックをしても応答はなく、仕方なくそっと扉を開けてみると部屋の中には誰もいなかった。腕時計を確認すると、約束の時間通り。類には部屋の中で待ってますと連絡を入れて、失礼しますと声をかけ室内に入る。
花沢物産で働いているとは言え、類とつくしに接点があることを知っている者は殆どいない。つくしが英徳に通っていたことも人事部の人間が知っている程度で、そのことを類と関連付けて考える者はいなかった。
そもそも、働き始めてから類も日本にいたりいなかったりと多忙で、顔を合わせることは少なかった。大学の頃は毎日のように会っていた類と距離が出来てしまうのは、仕方のないことと割り切っているが、やはり一抹の寂しさはある。
「待たせてごめん」
背後の扉が開いて、類が電話を片手に慌ただしく部屋へと入る。
電話の相手とは一言二言会話をすると、すぐに通話を終えて、類はつくしの向かい側のソファーへと座った。
「忙しそうだね」
「ん……まあね。牧野の顔見るの久しぶりな気がする」
「うん、あたしも……類の顔見るの久しぶり」
ホッと息をつける温かな空気が流れる。ああ、やっぱりこの人のことが好きだなと自分の気持ちを再確認した。
いつから好きだったかなんてわからない。顔が好きなわけでもない……と言えば嘘になる。高校時代出会った瞬間にときめいたのは事実だ。
けれど、あくまで友人であるように努力したつもりだ。
類がおもむろに立ち上がり、つくしの隣に移動した。疲れているのか、コテッとさらさらの薄茶色の髪がタイトスカートから覗く太ももに触れる。
「ちょっ……類っ!」
「膝貸して、ちょっと疲れた」
類の特別なんじゃないか、と勘違いしてしまいそうになる。
そう頻繁ではないにしろ、二人で会うたびつくしに甘える類に胸がとどろく。
ふわりと髪から柑橘系の香りが漂い、そのサラサラの髪を撫でると、類の目が薄く開いた。
「それ、気持ちい……」
「疲れてるね……なのにぜーんぜん隈とかできないし、女としてちょっと腹たつ」
寝不足で肌がガサガサになるあたしとは大違いだ──と言えば、膝の上でそう?と類が首を傾げ、仏頂面をするつくしの顔を見て笑う。
「くッ……笑わせないでよ。っていうか、俺……牧野のこと可愛いと思うけど」
「もっ……もうっ類やめてよ!調子に乗っちゃうから!」
「いいよ、調子に乗って」
膝の上でつくしを見上げる類の瞳が思ったよりも真剣で、心臓がドクリと大きな音を立てる。
頬を撫でる手がヒヤリと冷たく、つくしの肩が震えた。綺麗に整えられた爪が視界に入る。指がツッと下唇へ移動し、自然に開いた唇の隙間に指の腹が触れ、意図せず濡れた音を響かせた。
「……っ」
身体中の熱が顔に集まったかのように紅潮する。
「顔真っ赤……ほんとそーいうとこ可愛いよね」
類はつくしの唇から手を離し起き上がる。二人の間に流れた淫靡な空気は一気に霧散し何もなかったかのようだ。
「でね、頼みたいことがあるんだ」
まだ自分の顔は赤いままだろう。類もそれに気づいているはずなのに、近づいたかに思えた距離は再び遠く離れてしまう。
仕方がないと、分かっているけれど。好きになったところで報われないと知っている、それでも好きになる自分の気持ちを抑えることなどできなかったのだ。
「……頼みたいことって?」
類は揶揄っただけだ。いちいち反応を示すつくしが面白いからと、彼はちょくちょくつくしとの触れ合いを持つ。それがつくしにとっては、堪らない。好きな相手に触れられて、平静でいられるはずがなかった。
必死に取り繕って告げるが、ジワリと涙が浮かぶ。パッと俯いて唇を噛み締めた。
「婚約者」
冷や水を浴びせかけられたかのような衝撃を受けた。
今このタイミングで聞きたくなどなかったのに。
「こ、んやく……?」
〝おめでとう〟そう言わなければならない。いつか来るとわかっていた日がきただけのこと。
つくしが口を開きかけたタイミングで、類が言葉を紡いだ。
「牧野、婚約者のフリしてよ」
「おめ……はぁっ!?」
パッと顔を上げ類を見る。目尻に溜まっていた涙が頬を伝った。類はフッと綺麗な微笑みを浮かべると、つくしの頬を拭う。
「もう煩くてさ……取引先やら関係会社からの見合い話。うちの親は別に結婚を焦る必要はないからって言ってくれてるけど、取引先だけに完全に邪険にすることもできないんだよね。で、それってつまり、俺に決まった人がいればいいわけでしょ?」
「はあ……」
「だから牧野が婚約者のフリしてよ」
「なんで、あたし……?」
「だって他に頼める人なんていないもん。どうでもいい他の女に勘違いされても困るし」
ツキリと胸が痛む。釘を刺されているかのようだ。つくしなら〝勘違い〟しないから?つくしなら自分の立場をちゃんとわかっているから?
「類の……頼みなら、いいよ……」
ここで断れば、どうしてと理由を聞かれるだろう。その時自分は何と言い訳をすればいいのか思い当たらなかった。本当は嫌で堪らない、どうして好きな人の婚約者のフリをしなければならない──自虐的過ぎて笑いがこぼれる。
しかし、つくしは一週間も経たないうちに、この時軽はずみに了承したことを後悔することになる。


花沢物産、十階営業部、営業事務チーム──。
婚約者のフリを了承したものの、特に変わったところはなく三日が過ぎた。何をやらされるのかと内心ドキドキしていたものの、この三日間は類と会ってもいない。
「牧野さん、お昼行こうー!」
「あ、俺も一緒していい?ちょっと聞きたいことあるし」
同じく営業部に配属された、新人の松本やこ(まつもとやこ)、明日原凪(あすはらなぎ)が席を立った。
やこは営業チームに配属で、凪はつくしと同じ事務チームだった。一応業務上チームがわかれているとは言っても、営業チームと事務チームは同じフロアで机を挟み目の前に座っている状態だ。営業チームの持ってきた経費の精算など近くにいた方が効率が良く、むしろチームをわける必要すら感じられないが、大きな会社ゆえに部署なども細かくわけられているのだろう。
つくしも席を立ち、やこと凪の後に続こうとするが、後ろから焦ったような営業課長の声が聞こえて、振り返る。
「ま、ま、牧野さんっ!」
「はい?」
「せ、専務が……君っ、何かした!?」
「はっ?」
「内線……っ、専務室に……はぁっ」
やこと顔を見合わせる。息急き切って話す課長はよほど慌てていたのか、ところどころが聞き取れない。要約すると「花沢専務が牧野さんを呼んでいる」ということらしく、思い当たる事のあり過ぎるつくしは、はぁと深いため息をついた。
「課長、別にあたしが何かしたってことじゃないので大丈夫だと思います。専務のお部屋に伺えばいいんですか?」
「本当にっ?とりあえず急いで行って!待ってるから!」
「はい」
不思議そうに首を傾げるやこと凪にごめんとジェスチャーだけで謝り、つくしは役員室が並ぶ上層階へ向かった。


一つため息をついて、重厚な扉をノックする。中から類の声でどうぞと聞こえて、つくしは部屋の扉を開けた。
「専務……何かご用ですか?っていうか、課長の内線にかけるのはやめていただきたいんですけど……ひっくり返りそうなほどビックリしてましたから」
室内には類の秘書である田村がいた。話は終わっていたのか部屋を出るところで、つくしは軽く頭を下げる。
「ハハッ……牧野の敬語って貴重だね。別に田村の前だからって畏まらなくていいのに、婚約者なんだから」
「……で、何か用?」
つくしは田村が部屋を出て扉が閉まったのを確認し類へ問う。一応、公私はわけたかった。
「ん?ご飯まだでしょ?一緒に食べようかと思って。一応牧野のスマホに連絡したんだよ?でもスマホのチェックしてないでしょ?だから仕方なく営業部の内線にかけただけで」
そういえばスマートフォンは鞄の中にしまったままだった。仕事中とくに使うこともないから、鞄ごとロッカーに入れている。
「じゃああたしに直接内線かければいいじゃない」
「俺のとこにある内線表、各部署の課長以上の内線番号しかないんだよね」
それもそうか、と納得する。花沢物産専務である類が、そもそも一社員に連絡を取ることなどあり得ないのだろう。
「牧野、弁当交換して。俺牧野の作ったご飯好き」
類がテーブルに置かれた弁当をつくしに差し出す。簡易のプラスチックなどではないズッシリとした重さの弁当箱は、蓋を開けると色取り取りの食材を使い、職人技とも思える美しいおかずで作られていた。
「これ、と交換するの?」
「うん……それ食べ飽きた」
「いいけど……あたしのお弁当全体的に茶色いよ?」
「玉子焼き入ってる?」
「それは入ってるけど」
つくしは手に持っていた自分の弁当の蓋を開け類へ差し出す。もちろん中にはねじり梅に切られた人参などは入っていないし、使っている肉は国産でもない。
「じゃあ、交換」
ひょいと弁当を取られ、綺麗な所作で手を合わせる。なんでもない動作一つ一つが美しく、絵になる男だとつくしはしばし見惚れた。
ランチの時間が終わり、つくしは食べ過ぎたお腹をさすった。持ってきた弁当の二倍はありそうな大きさの弁当を一人で食べてしまったのだ。むしろ類が足りなかったんじゃないかと気づき視線を向けると、嬉しそうに口角を上げ笑みを浮かべる類の姿があった。
「な……なに?」
「俺、牧野が美味しそうにご飯食べてるとこ、好き」
〝好き〟その言葉だけで心が躍るほど舞い上がってしまう。期待してはダメだと言い聞かせながら、もしかしてと思う気持ちが拭えない。
「あ……そう」
類に気づかれないよう小さく嘆息し、つくしは自嘲的な笑みを漏らす。
類の優しさが、今は辛い。


その日の退社時間、自席の内線が音を立てる。電話に出ると、昼に内線番号を教えたばかりの類からだった。
『牧野……?もう帰る?』
「あ、うん……帰るけど」
『じゃあ、そのまま待ってて。ちょうど営業課長呼ぼうと思ってたんだ。話のついでにそっち行くから』
「はっ!?」
言い返そうと口を開く前に、電話は無機質な音を立てて切れていた。その直後営業課長の内線が鳴るのが聞こえて、つくしは机の上に突っ伏した。
「牧野さん……どうかした?何かあったの?」
凪が心配そうに隣に座るつくしに声をかける。
「あーううん……別に。っていうか……あたし、終わったなと思って。はぁー」
類の言う婚約者のフリとは、たとえばパーティーに同伴するなどの一度限りのことだと思っていた。昼を類と一緒に摂るのは嬉しいことであるし、周りにバレさえしなければ断る理由にはならないが、つくしの聞き間違いでなければ、類はここに来ると言ってはいなかったか。
戸惑うような周囲の騒めきが耳に入る。電話をしていた者も皆、入り口付近へと釣られるように視線を向けた。
颯爽と現れた男はつくしに向けて微笑みを見せると、緊張し固まったままの営業課長の机へと書類をポンと置いた。特に話すこともなく踵を返すと、緊張で強張っていた営業課長の肩があからさまに下がったような気がする。
「牧野、俺も今日帰れるんだ。弁当のお礼に夕食ご馳走させて?そのあと家まで送るからさ」
机に置いたままのつくしの手に類の手が絡まる。キュッと繋がれ手を引かれると周りの視線が痛いほどに集まった。
肩を落としたまま恨みがましい目で見ても、飄々とする男はにこやかに笑うだけだ。
「ちょっ……ちょっと類っ!」
「なに?」
「こ、こんな……」
自分がどの程度の影響力を持っているかわからない男ではないだろう。なのに、明日からつくしは花沢類と関係を持つ女性として周りに認識されてしまうことに気付かないとでもいうのか。
「婚約者なんだからいいでしょ。いつまでも隠しておけることでもないし」
「はぁっ?」
そう、婚約者だ。確かにつくしは類の婚約者のフリをしている。その〝フリ〟が終わったら、つくしは花沢類の元婚約者になるのだろうか。周りから噂されながら、類の本当の婚約者を見なければならないのは辛いことだ。
つくしに恋心があることを知らないとはいえ、あまりに酷い。
つくしの手を包みこむように握る類の手は優しいのに、これではあんまりじゃないかと、唇を噛み締めた。


案の定、翌日会社に行くと、類とつくしの噂で持ちきりだった。
顔と名前も一致しない相手からの同じ質問に辟易し、仕事に没頭することで憂いを振り払った。
隣に座る凪も前に座るやこも、心配げな表情でつくしを見つめていた。
昼休み、昨日と同じ時間に内線が鳴る。ディスプレイに表示されているのは、類の執務室の番号だった。
このまま電話に出ずに外に出てしまおうか、と頭をよぎる。しかし、類が相手ならば他の誰かが取った内線でつくしは呼び戻されてしまうだろう。取らないの?と凪の視線に促され、思いついたままに凪の耳元に口を寄せ、他の誰にも聞こえないように小さく話す。
「ごめん、もうランチに行ったって言ってくれる?」
凪ならば、たとえば類とつくしが上手くいっていないなどのうわさ話を広げたりはしないだろう。渦中に立つつくしに同情はあるだろうが、変に勘ぐったりはしない男だ。
つくしがそっと席を立つと、凪は小さく頷きつくしの電話に手を伸ばす。
「はい、牧野の席です──」
凪の声を背後に聞きながら、つくしは弁当を持つのも忘れて一人になれる場所を探した。
食堂へ行こうかとも思ったが、衆人環視の中では落ち着くこともできない。
どうしようかとエレベーターホールを通り過ぎ辺りを見回していると、自動販売機の裏に椅子があったなと思い当たる。目立たなく薄暗いことから、あまり人が来ない場所だ。つくしは椅子に腰掛けるとどっと疲れが押し寄せ、深く息を吐きながら壁にもたれかかった。
「どうしよう……」
婚約者のフリをすると言ったものの、もう挫けそうだった。
数多の女性に言い寄られるのが嫌だという類の気持ちもわかるが、つくしの気持ちを蔑ろにしていい理由にはならない。
類は知らないんだから八つ当たりだけど──と自嘲する。
さっさとこんな不毛な片想いはやめて、他に好きな人でもできればいいのだろうが、柔らかく微笑む類の顔を見てしまうと、やっぱり好きだなぁと再確認させられてしまうのだ。
しかし、もう無理だ……やっぱり断ろう。
そもそもいつまでとも言われていないが、つくしにこの状況は耐え難い苦痛だ。
仕事が忙しかったこともあり、あくびが溢れる。壁を背もたれに目を瞑っていると、すぐに眠りは訪れた。



つくしの隣に腰かけ、さも当然のように類の手が腰に手が回る。
十階から類に抱きかかえられ、エレベーターで運ばれたのかと想像すると、羞恥でどうにかなりそうだ。
「ごめん……もう無理だよ。あたしに婚約者のフリは無理」
「どうして?」
キョトンと首を傾げて聞かれると、つくしの苛立ちは益々大きくなる。
「どうしてって……あたし、これじゃあもう会社これないよ──?婚約者のフリって、会社内でベタベタしてるとこ見せることなのっ?もし……もし類が本当に婚約したら?あたしは類に振られた女として恥を晒すわけ?それでもここで働き続けろって、類は言うの?」
怒りや侘しさで頭の中が真っ赤に染まる。ずっと抑えていた涙は絶え間なく頬を伝った。
「そんなことにはならないよ」
つくしの髪を撫でる手はこんな時にも優しい。それが余計に辛いのだとどう言えば伝わるのだろう。
「だってっ……類は」
あたしのことなんて、何とも思ってないくせに──その言葉は類の唇に塞がれ宙に消えた。
「んっ……ぅ、やぁ」
口腔内に入り込む舌が、歯列をなぞりつくしの身体がジンと熱を帯びる。クチュリとどちらのものかわからない唾液が淫猥な音を立て、背筋が快感で震えた。
「……本当に、イヤ?」
耳元で囁かれた言葉は、思わず首を振ってしまいそうなほど劣情を含みつくしを誘っている。
嫌なわけないじゃないか──好きな人に触れられて嬉しくない女などいない。
けれど、類の気持ちがまるでわからない。
「牧野ってさ、わかりやすいんだよね」
チュッと再び軽く唇同士が触れ合い、すぐに離された。
顔真っ赤だよと頬をツンツンと指で触れられて、羞恥に涙が浮かぶ。
「俺を見つめる瞳が……俺のことを呼ぶ声が、俺のこと好きでたまらないって言ってる」
「そ、んなこと……」
「否定しないでよ。自分でこんなこと言うの、結構恥ずかしいんだからさ」
確かにプイッと横を向いた類の頬は薄く赤らんでいて、つくしを期待させるに十分だった。もしかしたら本当に、本当に期待してもいいのだろうか。
じゃあ、どうして──。
「なんで……あたしを試すようなことしたの?」
「試したわけじゃないよ。牧野に好きだって言ったところで、俺の気持ちは信じたかもしれないけど、牧野は多分不安なままだったと思うんだよね」
「そりゃ……だって」
「好きだよ。ちゃんと言ってなかった、ごめん」
「……」
ソファーに肘をついた類が顔を傾けて微笑む。細められた目元の奥にある、髪色と同様の茶色の瞳に吸い込まれてしまいそうだ。
髪を一房手に取り口付けられると、つくしの顔はボンっと音がするほどに赤く染まった。
「ハハッ、ごめ……っ、あんたやっぱ面白すぎ」
「もうっ!どうせそうやって揶揄ってんでしょっ!?もう騙されないんだからっ!」
「揶揄ってない」
やっぱり好きだなんて冗談だったんだと、思わず手が出て類の胸を小突くと、胸の前でつくしの手は受けとめられ類の手が絡む。
「え……」
「揶揄ってないよ」
類の真摯に向けられた瞳に心音が高く跳ね上がる。
「好きじゃない女と、婚約なんかしない」
「でも、フリだって……」
「フリだって言ったけど、あんたを納得させて外堀埋めるためにそう言っただけで、牧野は俺の婚約者なんだよ。本当の」
実は両親にもとっくに言ってあるんだと、してやったり顔で微笑む類に愕然とし、口を開けたまま固まった。
「はっ?」
「ね?あとはあんたのYESの返事だけだから。そろそろ覚悟して俺のものになりなよ」



首にかかるクリスタルのペンダントが白く光り始める。
徐々に景色が滲み、つくしの記憶はあやふやになった。

(あれ、あたし……こんなペンダントなんかしてたっけ?)

『ツクシ姫、あなたはルイ王子……いえ、花沢さんのことが好きですか?』
「だれ……?ここは?類は……あたし、会社にいたはずなのに」
ふわふわと身体が宙に浮いているような感覚。流れるように様々な記憶が脳内に入り込む。

(嘘でしょ……マッキーノ王国って。ルイ王子って……)

(せっかく、類が好きって言ってくれたのに、早く目を覚まして──あなたに会いたい)

『その願い──聞き入れましょう。この世界に順応するために、王国全員の記憶を入れ替えましょう。ツクシ姫のご両親はものすっごいビンボーでいいでしょう。だって姫は花沢さんと幸せになるんですもの。これから少しの間だけ苦労してくださいな』
『ねえ、サクラーコ。あたしたちは?』
『シゲール。あたくしたちも、もちろん姫のおそばに。今度は姫の親友として、見守りましょう』

再びペンダントは白く輝きを増す。
眩しいほどに光を帯び、サクラーコとシゲールの身体も景色に溶け込み始めた。



「牧野……あんたほんとよく寝るよね」
「ルイ王子……」
類はソファーの上で横になり、口をムニャムニャと動かし眠るつくしを見つめて穏やかな笑みを漏らす。
「王子ってなに……ああ、俺が王子ならあんたはお姫様か。ねぇ、早く起きてよ……ツクシ姫」

fin



↓オマケ↓がありますのでこちらもどうぞ

Comments - 6

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スリーシスターズ  

こんばんは。

現代の類くんとつくしちゃん。
つくしちゃんの片想いからどんな風に類くんに好きって言うのかな?
類くんはつくしちゃんにどうやって好きって伝えるのかな?
ツクシ姫のペンダントとマッキーノ王国のツクシ姫としての記憶はどうなるのかな?
色々思い描きながら最後まで読みました。

読み終わって、題名の通りFantasy小説を読んだような気分になりました。
夢か現か・・・みたいな最後がとても幻想的に感じました。
余韻に浸ってしまうくらい素敵なお話でした✨






2017/10/26 (Thu) 22:06 | EDIT | REPLY |   
オダワラアキ  
Re: スリーシスターズ様

コメントありがとうございます♫

余韻に浸っていただけましたか〜嬉しいです!

ほかの王子たちのことも回収したかったんですけどね…
ふふ、文字数の都合で諦めました(笑)
きっと、ほかの王子たちはこの世界のF3となってツクシ姫のそばにいるはず♫

最後は絶対類に、ツクシ姫と呼ばせたかったので、勝手に満足しております♫
fantasyはあと最終話が残すところ二話となりました。
総二郎end、あきらendもお楽しみいただけると嬉しいです。

そして、最後になりますが、たくさんのコメントありがとうございました。

2017/10/26 (Thu) 22:23 | EDIT | REPLY |   
さとぴょん  

アキ様♡
類つくの世界にぐんぐん引き込まれるお話
ありがとうございました♡

自分の気持ちに蓋をして、婚約者のフリを引き受けたつくし。
何気なく触れてくる類に、
嬉しさ以上に、悲しみや苦しみが増していく様子がが膨らんで
せつないけれど、とてもよかったです♡

「俺を見つめる瞳が、俺のことを呼ぶ声が、俺のこと好きでたまらないって言ってる」

「好きだよ。ちゃんと言ってなかった、ごめん。」

類って意地悪だなって思うけど、
こんな風に最後に言われたら、
もう、どんなことでも許しちゃう気持ちになりますよね。

外堀埋めてから、獲物を確実にしとめる類
憎らしいけど、この甘さはやっぱり類独特の魅力なんだろうなって
改めて思いました。

アキ様の類つくは、国宝ですから。

これからも時間があったら、絶対(Rも含めて)書いてくださいね(*^^*)♡♡♡

ツクシ姫と類王子が
いつまでもしあわせに暮らせますように♡
お話ありがとうございました♡

2017/11/09 (Thu) 14:16 | EDIT | REPLY |   
オダワラアキ  
Re: さとぴょん様

コメントありがとうございます♫

国宝だなんて、国宝に失礼です(笑)あはは(笑)
お話を書くときに、このセリフは絶対類に言わせるぞーって思いながら書いてるので、見事にさとぴょん様がそれらを拾い上げてくれて本当に嬉しいです!
fantasyでは「俺を見つめる瞳が……」romance最終話では「俺の唇のカタチ覚えた?」
これは絶対使ってやるって、思いながら書いておりました!
最終話はみんな大好き鉄板ネタで行こう!って思ってたのもありますが、楽しんでいただけて嬉しいです!

合わせまして、ここ数日怒涛のコメント、凄く大変だっただろうなと感謝感激の気持ちでいっぱいです。
私だけじゃなく皆同じ思いだとは思いますが、お礼を言わせてください。
最後までお読みいただきありがとうございました(o^^o)

2017/11/09 (Thu) 20:35 | EDIT | REPLY |   
kachi  

アキさま
類くんの素敵な最終話をありがとうございます😊

あれ?ツクシ姫は何処???これはfantasy???と疑問に思いながらも素敵なお話に引き込まれました♪

つくしちゃんの切ない片想いの様子に類くんったら意地悪ねとも思いましたが、そこはつくしちゃんのことを熟知している類くんの優しさからでしたね♪

本当の世界が何処にあるのか不思議なところがこのfantasyのお話全体とも繋がっていて面白かったです♪

素敵なお話をありがとうございました😊

2017/11/10 (Fri) 23:34 | EDIT | REPLY |   
オダワラアキ  
Re: kachi様

コメントありがとうございました🎶

ラストは現代で!純愛系で!なんて決めてたら長くなってしまいました。
最後までfantasyお付き合いいただきありがとうございます!
そうそう、ほんとツクシ姫どこ!?ですよね(笑)
最終話なのに、チラッとしか出さないという(笑)
心残りがあるとすれば、あちらの世界のF3を現代に、と書けなかったんですよー
ツカサ王子たち…どこ行った(笑)

CP違うのに、コメントたくさんいただき嬉しかったです!
最後までお読みいただきありがとうございました🎶

2017/11/11 (Sat) 06:49 | EDIT | REPLY |   
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